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【透派ものがたり】(4)佐藤六龍著

【透派ものがたり】(4)


(季刊「五術」平成28年2月号掲載文から抜粋) 


佐藤六龍著





その頃、宋は蛮族である遼の国と争いを起こしていました。両国とも全力をあげての悪戦苦闘であり、きのう宋が勝ったかと思えば、今日は遼が勝つという状態でした。

その頃の戦勝国と敗戦国のちがいは極端なもので、敗戦国は、それはみじめなものでした。敗れた国の人々は勝った国の人々の陵辱を、なすがままに受けなければならなかったのです。

こうしたことから、希夷は自国の戦局について、非常に関心をもっていました。しかしながら、どの合戦についても勝敗の消息が伝わってくるまでは、たしかな結果を知ることができませんでした。

たとえ、すでに勝敗がついていても、統治者は、負けても勝ったと発表するものです。
ある辺境では、勝ち戦の公表に喜び、勝利の祝い酒をくみかわしているさなかに、どっと敵軍が入ってくるということすらあったのです。

こうした中にあって、希夷が不思議に思ったことは、布衣道人は、戦いが始まる前からちゃんと勝敗についてすべてを知りつくしていることでした。何万里離れているか分からない辺境の戦場の出来事が、道人には手に取るように分かっているのです。

ある日、たまりかねた希夷は、道人に尋ねました。
「先生は戦場を見てきたわけでもないのに、なんで初めから戦いの勝敗がわかるのですか?」
この問いに対して道人はいつものように、ニコニコしながら答えました。
「それは奇門遁甲術という方術を知っておれば、なんでも事前に分かるものじゃ。つまり、物事を予知するには、〝卜〟が必要なのだが……」

またまた希夷の未知の術が出てきたのです。希夷は道人について、この「卜」を一生懸命、習い始めました。

この結果、希夷は「卜」についても「山・医」と同様に練達し、道人を凌ぐほどの腕前になりました。もう、国の戦いの勝敗は的確に予測できるようになったある時、またまた宋と遼が戦いを始めたという情報が伝わってきました。

道人は、「どちらが勝つと思うかね?」と、希夷に尋ねました。
希夷は習得した「奇門遁甲術」で十分調べたうえで、道人に答えました。
「宋軍は生門に向かっており、遼軍は死門に向かっています。宋軍が攻めたのですから、座山と立向からみて、立向のほうの宋軍が有利です。おそらく三か月もしたら、宋軍の大勝利となりましょう」道人はニコニコしながら、この答えを聞いていましたが、やや皮肉な口調で、「よく三か月ということが分かるね?」と聞き返しました。

希夷は、道人の態度に不安を感じながら、「奇門遁甲の応期盤をみれば、三か月くらいという事はすぐわかりますが……」と答えました。

「それでは、宋と遼の争いは、結局どちらが勝つと思うかね?」
「はい、数年後にはなりますが、宋の勝ちとなりましょう」
 
人はひげをなでながら、じっと希夷の言葉を聞いていましたが、さらに「よく数年後のことが分かるね」と聞き返しました。
「はい、応期盤でたやすく分かると思いますが……」
「うむ、それならば五年後、お前はどこで何をしているかな?」

この問いには、希夷もつまってしまいました。なんと希夷は、天下大勢のことは予測できても、自己のことになると、何一つ知っていなかったのです。

                                                  以下次号

























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