FC2ブログ

記事一覧

【透派ものがたり】(3) 佐藤六龍著



台風が近づいているようですね。
昼頃は、さやさやと雨が降っていた東京・渋谷地方です。
この台風が抜ければ、季節が交替して、
秋がはじまるのでしょうね。


















【透派ものがたり】(3)


(季刊「五術」平成27年12月号掲載文から抜粋)

佐藤六龍著





陳希夷は、三年後には、仙道(山)と治療術(医)は、布衣道人よりも上手になりました。いまや近隣の人々からは「神医」とあがめられるようになり、その地方で希夷の名前を知らない者は一人もいない、というくらいの評判をとるようになりました。

ふつうの病気だけでなく、今で言うノイローゼのような病気も、希夷の手にかかると、すっかり治りました。

ある神経質な若い未亡人が不眠症になり、よくあくびをし、時には笑ったり時には泣きわめいたりする気分のはげしい症状を訴えて、希夷のところに診察を求めてきました。

他の医者のところでは、「再婚以外に治る道はない」と断言されたというのです。しかし、この若い未亡人は、最愛の夫が目にちらついていて、今はまだ再婚する気になれないと言うのです。

希夷は診察したあと、ある漢方薬Aを与えました。すると、この未亡人はすぐに不眠症も治り、ヒステリーも起こさなくなりました。

またある日、三十歳くらいの女性が希夷を訪ねて来て、皮膚病を治療してもらいたいと言います。よく診察しますと、その女性の皮膚はカサカサに乾燥しており、鮫肌になっています。またそのうえに、あちらこちらが乾性の水虫になっており、毎日かゆくてしかたがないという主訴もあります。さらに日暮れになると、筋肉がチクチクと痛み出し、夫との夜の生活もしっくりといかないとの事でした。希夷は、その訴えと、くわしい診断の末、漢方薬Bという処方をあたえました。

これですぐに治ると思っていましたら、一週間過ぎても治らず、苦痛が増すばかりであるという訴えが来ました。これには神医とまで言われた希夷も頭をかかえてしまいました。この処方を、この症状この病人に使うのは正しい使い方であり、どう考えても、これ以外に他の処方などはあり得ないのです。もしもこれが効かないとなると、自分の修めた医術の根本がゆらぐことになります。

思いあまった希夷は、布衣道人を訪ねました。道人は患者を連れて来させ、自分自身で丹念にその女性を診察しました。たしかに希夷の処方とその処置は正しかったのです。処方が正しいのに、なぜ治らないのか、といぶかしがりながら、道人は患者の顔を見つめました。しばらくその女性の顔を見ていた道人は口を開きました。

「あなたの家の裏戸のそば、ちょうどあなたの寝室の窓の下のあたりに、何か汚い物がたくさん積んであるはずじゃが……」と、道人はその女性に聞きました。

「はい。私は花をたくさん植えていますから、肥料を、今、先生がおっしゃった場所に積んでありますが……」
「その肥料をすぐに取り去らなければ病気は治らぬ。その肥料さえ他へ移せば、病気はすぐに治るだろう」と、道人は、はっきりと告げたのでした。

そこでさっそく女性は、その肥料を他の場所に移しますと、水虫と鮫肌と痛みは忘れたように治ってしまいました。この結果を聞いた希夷は、道人に尋ねたのです。

「先生、どの医書にも、患者の顔から、肥料が積まれていてそれが病気の原因になっている、ということを判断する方法が書かれておりませんが、あれはどういうふうに見るのでしょうか?」

道人は笑いながら答えました。
「それは陽宅の法と言って、相術に入る方術じゃ。相を知らずして、なんで医を語ることができよう」

またまた道人は希夷に、胸を射すような言葉をはきました。その日から希夷は、「相術」を一生懸命学び始め、ついに三年後には、またまた道人に勝るとも劣らないような腕前に達しました。

希夷は天才的な人間で、とにかく学べば師の道人よりも上に行くという、まれに見る才能を持っていました。

                                       以下次号






















関連記事